最新のスウェーデン訪問記 4



スウェーデンではもっとも鬱陶しい季節だと言われている11月に再度、スウェーデンに出張してきました。この時期は天気が悪い日がつづきます。どんよりとした空模様で、雪が降りそうで降らない、降ってもみぞれのような雪ですぐ溶けてしまいます。
国の行事も11月3日のオール、セント、デイがあるくらいで、夏の明るい時期と比べると、スウェーデンの人々の表情がもっとも暗くなる時期ではないかと私は感じています。
さて、今回も心の故郷、ダーラナへ電車でストックホルムから行きました。その車中でのお話です。
朝、9時44分の列車で銅とベンガラで有名なファールンというダーラナ地方の主要都市へ向かいました。平日の木曜日の朝というのにめづらしく長距離列車がほぼ満席でした。
私たちの席から通路を挟んで隣の6人掛けの席に小さい子供づれの家族が5人、私たちの前の2掛けの席には20代の若い男性の二人連れが旅をしていました。
子供づれの家族はおばあちゃんと息子とその嫁に、2歳くらいの女の子と、生まれてまだ数カ月の赤ん坊の5人でした。
子供たちの父親は30歳の手前くらいの年頃だと見受けました。髭を蓄えた金髪の、一見ゴッホに似た渋い面構えの男性です。おばあちゃんちゃんは孫の女の子に絵本を読み聞かせています。その読み聞かせが実に上手で、まるでテレビかラジオの朗読を聞いているような演技力を備えた読み聞かせでした。
絵本をちらりと見てみると、牧場で牛の乳を搾る場面が出ていました。画面の背景はもちろんスウェーデンの風景です。まさに今、私たちが列車で走っている、景色そのもでした。
家族の会話も小さい子供づれのそれで、ほのぼのとした一場面でした。
ほほえましい情景を見せてもらいながら、列車は目的地へと向かったいましたが、突然、前の席の男性が人の名前を呼び求め始めました。気がつかなかったのですが、もう一人の連れの男性が席を離れたまま、戻って来ていないのです。
残された男性は、悲しげに連れの男性の名前を呼び続けます。ミカエール、ミカエールと。その時に分かったのですが、独り残された男性は、軽い知能障害を持っていたのです。連れの男性が席に戻らないので不安になって、彼の名前を呼び続けていたのですね。
しばらく、彼の叫びが車両の中を響きわたっていました。すると、私たちの隣のゴッホに似た男性が、どこまで行くんだい?と半べそをかいて、連れの名前を呼び続けている男性に実に優しい口調で問いかけてあげました。すると男性は私たちがよく知ってる町の名前を告げました。
ゴッホ氏は、大丈夫、それならまだ大分先の駅だから、落ち着いて静かに待ってればミカエルは戻って来るよ。と、また優しく言い聞かせました。
それを聞いて安心したのか、かの男性は落ち着きを取り戻し、席でおとなしくなりました。それから間もなく連れの男性が戻って来て、無事に目的地まで行くことができたのでした。
11月初めの鬱陶しい時期のほのぼのとした、人々の気持ちを明るくさせてくれた一コマでした。
弱者にやさしい社会の実践が一市民のレベルまで行きわたっているんだなと感じた次第です。
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